ツンドク(それもタチが悪い) text by 幸田龍樹

 昨日、ミノさんのバイト先の古本屋(上野にある)で、ベケットの『マロウンは死ぬ』(単行本)と、モラヴィアの『無関心な人びと』(文庫)を買った。店主らしきおばあさんの好意で、どちらも一割引で手に入れることができた(しかも合計で六百四十円は安過ぎる。神保町の古書店街だったら絶対に三倍以上はしている。オーナーだけでなく、ミノさんにももちろん、感謝している)。


 でも、これで何冊あるんだろう?


 この前神保町の古書店街で手に入れたプイグの『ブエノスアイレス事件』、これにはまったく手を付けていない。その時買ったこれまたプイグの『リタ・ヘイワース背信』も途中まで読んで投げたまま。それより前に手に入れた金井美恵子の『岸辺のない海』も、ミノさんから借りた後藤明生の『挟み撃ち』も、ずいぶん前に池袋のジュンク堂書店で買ったサロートの『生と死の間』もそういう感じだし、それより後に(正確には『岸辺〜』の前に)神保町で買った『あの彼らの声が……』(これもサロート)は、今は枕元のCDの山の土台になっている。


 これで……六冊。昨日買った分を合わせると八冊。今はぼくは、ベケットの『マロウンは死ぬ』を読んでいる。


 それで、思い出した。ジャンルがまったく違うけれど、先週買ったブレイズの『25イヤーズ・レイター』とニュー・ミュージックの『フロム・A・トゥ・B』、土岐麻子の『デビュー』、それにミノさんから借りた暴力温泉芸者の『ケ・セラ・セラ』も、まだまともに聴いていない。先月買ったヤング・ディサイプルズの『ロード・トゥ・フリーダム』もそうだ、ひと通り聴いた覚えがない。


 これぞ《ツンドク》=《積ん読》! それもかなり中庸でタチが悪い! あるいは《ツンドク》=《ツンツンドクドク》=《普段ツンツン時々毒々しい》という風に解釈することも可能か? どちらにしてもこの《ツンドク》、ぼくによく似合うことばだと思う。